取材

取材というと、たいていはこちらから患者さんにお願いして取材させてもらうことが多い。

つまり、テレビやマスコミなどから取材依頼が来て、どうしても患者さんを紹介してほしいと頼まれて、何とか取材に応じてくれそうな患者さんを探すという段取りだ。

大抵は自宅の様子をつまびらかに人に見られたりすることに抵抗感があるし、自分や家族が療養している姿を見せたがる人は少ない。

今回は異なっていた。

 

患者さんの同意はすでにいただいております。だからあとは先生に出ていただきたいのです。そんな取材依頼に私は面食らってしまった。

在宅医療助成財団「勇美記念財団」が在宅医療の啓蒙向けに作る広報ビデオを作るために、どこからどういうルートだかわからないが、すでに私の患者さんには同意が得られている。

 

あとは私に出てもらえればいいだけだというのだ。

 

普段と同じ診療をと言われてもカメラの前では、いつも通りというわけにはいかない。それでも何とか、意図通りの映像が撮れたようだ。

 

患者さんは80代の脳梗塞後遺症の女性だ。4年前から、気管切開され、胃瘻もついている。一時は人工呼吸器も使用していたから、在宅患者さんの中でも重症な部類だ。

 

しかし4年たった今、毎日、絵画を描いたり、散歩にも出かける日々を送っている。月に一度は温泉旅行にも行っている。

もちろんその間の吸引や胃瘻からの栄養の投与などが欠かせない。

しかしそれでも、娘さんが献身的に介護したおかげで、こんなに元気になったのだ。

 

呼吸器や胃瘻はよく延命医療として嫌われる。

しかし、この方は幸せだ。

なぜなら、その人がきちんと人生を取り戻せているからだ。

 

人生を曲げてしまうのは、医療行為(延命医療)ではない。

実は周囲や家族の関わり次第なのだということを知ってもらいたい。

 

3万枚配られるというDVDで、多くの方々にそういうメッセージが伝われば、と私は願っている。