救急車依存症?

社会生活不安から、胸痛や呼吸苦など様々な身体症状が出てきてしまう方がいる。

特に夜中や夜明けごろに、不安が高じることが多いらしい。そうしたとき居ても立ってもいられずに救急車を呼んで、病院受診をする。病院受診時には様々な検査をしてもらうが、結局は悪いところはないということで返される。こういうことを1度ならず2度、3度と何度も繰り返す。ひどい場合には一晩2~3回救急車に乗ったという方もいる。

こうなると、病院も大変だが、救急隊も大変になる。苦しがっている人をほっとくわけにいかないので、その都度きちんと対応するのだが、問題は解決しない。

救急車の出動費は1回あたり45000円もするという。もちろん本人には請求されないが、税金で動いていることを考えなければならない。そればかりではなく、本来重症の患者さんに振り分けられるべき病院や救急車など救急医療の資源が消費されているという側面もある。

しかしそのような方にとっても、どうしようもない事情がある。救急車を呼ばないというほかの選択肢がないという事情である。家族がいたり、施設でのケアを受けている人ならともかく、一人暮らしでもともと身体状況も虚弱化している。さらに不安発作などがあるとき、どうしても救急車を呼んでしまう。というのだ。

こうしたとき、在宅医療が有効だ。当院ではこれまで何度かこのような方々の在宅医療を行ってきた。まず救急車を呼ぶ前に、当院に電話ください。そして必要に応じて往診して往診の結果で病院受診が必要なら、当院から病院受診を手配します。とお話しする。当院が間に入り、いきなり救急車を呼ぶことがないようにするのだ。

もちろんそうしたとき、しばらくは当院の電話が鳴りっぱなしになる。夜の往診も増加する。しかし訪問診療などで身体状況や生活状況が落ち着き、デイサービスの利用や適切な介護サービス利用などから少しずつ社会性が向上してくると、次第にその回数は減ってくる。そしていつしかご自分なりの社会生活を営まれるようになるのだ。

在宅医療は単に家での療養を支持するだけではない。本人やご家族の自律性を高める医療でもあるのだ。