寿命はどこまで伸びるのか?

明治、大正のころ、日本人の平均寿命は40歳代だったといいます。50歳を超えたのは昭和22年、歴史的に見ればつい最近の話なのです。

ちなみに漫画「サザエさん」の舞台になったのは1949年(昭和24年)です。そして主人公サザエさんのお父さんである磯野波平は54歳です。当時の平均寿命は男性が56.2歳、女性が59.8歳でした。だから当時、波平は、もうすぐ平均寿命年齢に達しようとしていたといえます。今の同年代に比べて波平が老けて見えるのも、致し方ないのかもしれません。

それから60年以上の月日が経ち、今や男性の平均寿命が80.5歳、女性が86.8歳となっています。このように平均寿命が延びたのは、国民皆保険制度の施行により、医療受診機会が増えたこと、栄養状態の改善や感染症治療の進歩などにより乳幼児や小児の死亡が減ったこと。高血圧治療の進展や生活習慣の改善などで、成人の死亡が急激に減ったこと。などが理由と言われています。

そして今や多くの人が75歳以上の後期高齢者になるまで人生を全うできる時代を迎えています。つまり今や多くの日本人が、後期高齢者になり、最後は高齢疾患や虚弱化によって亡くなっているのです。しかし昨今はこの後期高齢者が罹患する疾患や虚弱化因子の解明と改善に大きな進歩が見られ始めています。認知症の機序が解明されつつあると同時に予防や治療が進みつつあります。骨粗鬆症やロコモーティブシンドロームに対する知見や予防、治療も急速に広がりつつあります。

このような高齢疾病に対する医療の進展のほかに、さらにアンチエイジング医学がいま脚光を浴びています。いつまでも若々しく、元気でいたい。そう考えるのは誰しも当たり前でしょう。そのための様々な方策が模索され、実際に成果を上げてきているのです。

そうなるとさらに平均寿命は延びるはずです。人生100年という時代もあながち夢ではなくなってきました。歴史上もっとも長寿だったのは、フランスの女性のジャンヌカルマンさん(1875~1997)だといいます。彼女は122歳で世を去りました。つまり人間は120歳まで生きる可能性を持っていることになるのです。

皆が元気で若々しくいたいという努力を続けることで、いつしか120歳まで生きられる。そんな世の中が来るかもしれません。

しかし今多くの高齢者の方たちがつぶやきます。「こんなはずじゃなかった。」と。

高齢化社会の真の問題は、皆がいつまでも若々しく元気でいられるようになることではなく、何のために若々しく元気でいたいのか、ということなのかもしれません。