ドライな取り決め

 

父親の発熱は続いている。

もともと滑舌が悪く、嚥下も不良だった。そういう父親が今まで肺炎を起こさなかったことは、幸運だったといえる。

さすがにそうは幸運も続かなくなってきた。だから点滴と抗生剤治療が今日も続く。

これまでは、それほど医療的対応は必要なかったが、これからはそれも多くなるだろう。

 

父親が寝ている病室で、家族が集まり会議を開く。

今後の医療方針・介護方針・財産の方針について、みんなで相談する。

 

「お前たちに任せる。済まない。」かすれ声で父親がいう。

 

準備のいいことにすでに父親は遺言書を数年前に用意していた。

集まった全員の前で遺言書、財産などの確認をし、今後の方針を明確にする。

 

親族がもめないようにしながら、父親の思う通りの療養を全うさせること。それが私にとっては大事なことだった。

 

残念ながら。介護の過程で、親族間のわだかまりが高じることがある。

みんな親に対して、それぞれの気持ちがあるから、それぞれの思いで対応する。でもその対応はみな同じではない。だからお互いになぜ私がしているようにしてくれないのか?そういう亀裂が高じてくると財産の分配などでも、不信が広がり、最後は絶縁状態になってしまうということがあり得るのだ。

 

フェアーにして、皆がそれぞれの事情に応じて関わっても、もめないようにするためのルールを作ることが先決だった。

 

父親は一人暮らしを最後まで続けるが、かかわった全員がどういうかかわりをしたのか、明確にし、孫、子といえどもある程度介護費用を支払うこと。

 

父親の会計は独立し、だれからも持ち出しにせず、金銭管理を明確にすること。

 

発熱している父親の横で、ドライだが、今後のきちんとした関わりを決めておくこととしたのだ。

ドライな取り決めだが、そういうことが大切だとみんなわかってくれた。