旅の終わりに。

これまで、大久保のネパールの人たちを見ていて、国内に滞在するネパールの人たちの医療対応はどうあるべきかということを考えてきた。特に大久保の一次医療を担う当院にとっては、結核対策が喫緊の課題だった。

 

個人的には、無料結核検診をした方がいいのではないかと考え、区役所など関係諸機関との調整も行いつつある。しかし今回の旅行で、感じたのは、それでは遅いし、実は根本的には問題の解決にはなっていないことだ。

日本に来る前からの対策こそ重要性だったのだ。

大久保の外国人率は、大久保二丁目が37%、大久保一丁目は47%に及んでいる。その中で少なくない人がアジア、しかも貧しい国から来ている。すでにこれだけ人的交流が国際的になっている以上、各国の感染症対策、保健衛生状況の改善を任せて、大久保に来た人だけの対応することでは追い付かなくなってきているのではないだろうか。

 

これは大久保だけの問題ではない。日本全体の国際化やアジア化が進んでいくとき、積極的とは言わないまでも、時代の流れに後手に回ってはいけないと思う。

特に医療はそうだ。・・・・・なぜなら苦しむ人が増えるからだ。

 

今回の旅行で、現地の保健衛生とのコラボレートが必要ではないだろうか?と思えるようになった。

今回は単なるツアー旅行、しかも2泊3日と短期間だったが、幸い何人か現地に信頼できる知己を得ることができた。

まだ何ができるかわからないが、行動は起こしていく必要がある。

例えば、現地と協力し来日前から、日本語や日本の事情について理解をしていただくと同時に、しっかりとした感染症のチェックなどを行ったうえで、積極的に外国人を受け入れていく。そんな努力があってもいいのではないか。

そして今回のネパール旅行で感じたのは、実は問題なのは単なる医療だけではない。そこには保健衛生、さらにはそのベースを形作る経済や保健行政の在り方、教育や文化、社会の在り方なども一緒に考えていく必要があるということだ。

日本が失ったものが何で、ネパールが得てないものは何なのか?お互いに補完しあえるものはないのか?

これからの自分の一つのテーマとなった旅だった。

NATIONAL T.B. CENTER

IMG_0312 IMG_0332この国はまだ結核の高蔓延国としても知られている。今後日本で過ごすネパール人の増加に伴って、大久保でも結核対策が急がれている。

最期にガイドが案内してくれたのは、NATIONAL T.B. CENTERである。この施設はネパールの結核施設であるだけではなく、近隣諸国の結核エイズ対策の中心的施設にもなっているらしい。

ここには入院施設はない。しかし連日朝から結核診療を行っており、保健制度の無いネパールにおいて、国民が気軽に結核診断、治療を受けられるようになっている。

真ん中に中庭を有した回廊式クリニックで、回廊を回りながら、喀痰、採血、胸部レントゲン、そして診察、さらには投薬を順に受けることができる。

入院施設無いという。だから入院が必要なら、離れた病院での入院になる。あくまでもここは、外来での結核の初期診断、早期治療を目指した施設ということになるらしい。

私たちが来訪したのは昼前だったが、すでに検査などが終わって、診察を待っている人たちがいる程度で、それほどの混雑ではなかったが、毎朝非常に混んでいるとのことだった。

このセンターが日本の協力によってできたこともうれしいことだ。IMG_0323

CIWEC TRAVRL MEDICAL CENTER

次に訪れたのは、35年以上の歴史のあるCIWEC TRAVEL MEDICAL CENTERだった。

こちらは、旅行者とネパール在住外人専門のクリニックだ。

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手術こそできないが、入院設備を有し、常勤の医師が7人いて、365日24時間対応できる体制を有している。

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往診やヘリコプターによる搬送なども行っているというのだ。

このようなアクティビティの高いTRAVEL CLINICは日本にもないのではないだろうか?

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ネパールのクリニック

理由は定かではないが、日本人のネパールへのツアー客は年々減っているという。今回、普通のツアーでの申し込みだったが、日本語がしゃべれるガイドさんと運転手さんが付き添ってくれている。

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そのガイドさんに無理を言って、ネパールのクリニックや病院を見学させてもらえないか頼んでみた。

最初にお邪魔した医療機関は、その名もKathnandu Ultra Sound Clinic・・・つまり超音波検査専門のクリニックである。町中のビルの中に入り込んだクリニックだが、待合や周囲には患者さんがあふれていた。

唐突な来訪。しかも名刺も持たない得体のしれない日本の医者にも関わらず、院長のDr.shujunが迎えてくれて、患者さんを待たせながらも、IMG_0283いろいろお話してくれた。

まだ若い彼は、北京大学医学部を卒業し、今やネパールの医師会長のような立場になっているという。このクリニックのほかに医師10人を雇用するMRIなどを有する診断センターを運営をしているというのだ。

彼の活動は、都市部に限らない。地方にも出かけていき、保健医療活動をしているというのだ。

ネパール人のための医療に情熱を燃やしながらも、政財界の要人とも交流のある彼は、かつての日本医師会をリードした武見太郎を彷彿とする医師だった。

短時間の邂逅だったが、この国の医療をリードする医師に出会えたことは、なんと幸運なことだろう。

ガイドに感謝すると同時に、得体のしれない医師に時間を割いてくれたDr.shujunに感謝したい。