今まさに沈没しようとする巨船の上で繰り広げられているドラマがある。
少しでもいい席に座ろうと、人と争い、意気込んでいる人や、少しでもいい仕事をしてその船の上での地位の向上を目指そうとする人・・
安泰な船の上なら、そんなドラマも人間らしい。
しかし、傾きはじめて、このままでは沈没しかねない船の上では、滑稽でしかない。
そんな目先のことにとらわれずに、まずは必死に船の傾きを止めて、沈没しないように、乗客も船員も一丸となって、努力すべきでなのだ。
実はそれが今の日本なのだ。そんなことを、感じさせる本に出合った。
元厚生労働官僚の香取照幸氏の最近の著作である「教養としての社会保障」である。
社会保障という膨大な体系がなぜ必要なのか、そしてどのように社会の安定化に役立っているのかをこれほどわかりやすく論じた著作は珍しい。
もちろん、わたしは社会保障費が年々増加していること。赤字国債が増えつつあること。などはわかっていた。それでも事の重大さが実感できなかった。
しかし平易な文章であるが、本書が述べている事実は衝撃的だ。
読後、「教養としての社会保障」という平易な題名、そして全く飾り気もない表紙に、むしろ強烈なメッセージが込められていることに気づかされる。
本書はまさに「憂国の書」である。