10万人

私は今日朝から一日、東京で開かれた、「看護師特定行為研修指導者講習会」に出席した。

従来、看護師の業務は保助看法に位置付けられ、「療養の世話」と「診療の補助」に大別されている。このうち、「療養の世話」は、食事や排せつ、入浴の介助などの生活の支援であるが、もう一つの「診療の補助」というのが曲者だ。これこそが看護師の独自性であり大きな役割であるにもかかわらず、どこからどこまでが看護師が行うべき「診療の補助」であり、どこからが医師だけが行うべき医療なのか明確ではなかったからだ。

 

一切の静脈注射は看護師がしないという医療現場もある。また一方で僻地など医師が非常に不足しているところでは、看護師がかなりの医療行為を任されているという実態がある。しかし今後、高齢化社会を迎えて、医療と生活、介護の融合がますます重要となり、看護の役割を伸ばさなければならないときに、野放図であってはいけない。きちんと明確にして伸ばしていく必要がある。

 

その時に比較的高度な医行為を特定行為というものを明確にして、その担い手としていわゆる特定看護師を設けていこうというのだ。

もちろん特定看護師には、きちんとした研修が義務付けられる。その研修の指導者を養成するというのが、今日の講習会の目的だ。

 

厚生労働省看護課長から今後の抱負を聞いた。

高齢化社会を支えるチーム医療のかなめとして、特定看護師を位置づけ、その特定看護師を2025年までに10万人に増やすというのだ。

 

それが、どれだけ途方もない計画であることか、もちろん課長もわかっているだろう。

本日の聴衆である指導者候補(ほとんどは病院の院長や看護師長など管理職だったが)の皆でさえ、誰もにわかに信じられないといった表情だった。

しかしこのままでは高齢化社会を支えられないというのっぴきならない事情がある。

 

看護課長が語る。

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2025年に向けて、さらなる在宅医療などの推進を図っていくためには、個別に熟練した看護師のみでは足りず、医師又は歯科医師の判断を待たずに、手順書により、一定の診療の補助(例えば脱水の程度の判断と輸液による補正など)を行う看護師を養成し、確保していく必要がある。

このため、その行為を特定し、手順書によりそれを実施する場合の研修制度を創設し、その内容を標準化することにより、今後の在宅医療を支えていく看護師を計画的に要請していくことが、本制度創設の目的である。

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つまり特定看護師を増やす理由は、在宅医療の推進のためなのである。

現在看護師は全国に160万人いるといわれている。その中の10万人は決して多い数字ではないのかもしれないが、315時間の共通研修。さらにそのほかそれぞれの領域ごとに数10時間以上の研修を受けるという過酷な養成をするには、あまりに時間が短い。

それでも今後養成される新人看護師はすべからく、特定看護師を目指すことになることは間違いない。

 

本制度はすべて高齢化社会対策であり、さらに在宅医療の推進のためなのである。

どれだけ時代は焦っているのだろう。そんな焦りを感じる講習会であった。