私たちの課題

私たちの外来には本来ならば訪問診療に切り替えるべき患者さんが少なくない。

外来では検査などがしやすいので、疾病管理、予防的対応がしやすい。一方で訪問では様々な生活障害に対するきめ細やかなサポートが可能になる。

ご高齢の方にとって、元気なうちは外来にいらしていただき、疾病管理や病気の増悪予防を行い。虚弱化が進み、生活障害が進みつつあるときには、訪問診療で生活、介護一体型の医療的サポートが適切となる。それらがうまく移行できれば円滑な社会生活を営むことができるようになるのだ。しかしこの外来から在宅への移行が意外と難しいのだ。

「通院するのも大変だろうから、訪問に切り替えましょうか?」と促しても、「まだ、何とか通院できますし、むしろ病院に来ることを生きがいにしていますから・・・」とやんわりと断られることが多い。「わざわざ先生に来てもらうのは気が引ける。」からというように、遠慮する気持ちも加わっているかもしれない。

一人暮らしの高齢者の方が、一生懸命、杖や歩行器を使って頑張って通院してくださるのは、ありがたいが、通院途中の事故が心配になる。ましてや外来で見ていても、少しずつ生活機能低下が進行している様子を見ているのは忍びない。訪問診療に切り替えて、こまめに生活対応する中で様々な疾病予防や生活医療的対応ができることを実感してほしいと思うことも多いのだ。

そういう方には、「いつでも往診するから、困ったときには遠慮なく電話してね。」と声をかけることが多い。

ところが実は、“困ったら往診”というのが、本当は曲者で、往診には医療的改善能力が低い。往診が得意とするのは、症状緩和や療養方針構築であり、症状変化を起こさせないようにするために往診するというのが大切なのだ。だから本当は“困ったら往診”ではなく、“困ったことが起こらないようにするのが往診”なのだ。

実際長い間在宅医療を受けていた患者さんやご家族からは「先生にこまめに往診してもらっていたから困らなかった。」と言っていただくことが多いのだ。

これまで私たちは在宅診療を専門にしていたので、あまり気にならなかったが、外来を始めてみると、このような高齢者の方々が非常に多いことに驚くと同時に、どのように対応したらいいのかいつも頭を悩ませてしまう。

地域医療機関の責務として、様々な方々の地域社会生活を円滑に営んでいただくために、どのようにサポートするかが課題だと感じている。予防、検診、外来診療、往診、在宅診療と当院が提供する医療は、すべて多くの方々の地域社会生活サポートのためといっても過言ではない。しかしこれらがうまく組み合わさる必要がある。そのためにはまだまだ越えなければならない課題がある。そう感じる今日この頃である。