3cmの壁

先日、嬉しい出来事がありました。

訪問リハビリで伺っている、元々両手脚に軽度〜中等度の麻痺のある患者さん。
基本車椅子の生活でしたが、自宅内ではトイレに行く時だけ3cmほどの段差を乗り越えなければならないため、少しの距離なら歩けて、その段差も手すりに掴まれば歩いて越えられている方でした。

が、今年の始めに転倒してしまい、大腿骨を骨折。
入院して手術を受け、歩行練習もされて入院前と同じくらい歩けるようになって帰ってこられていたのですが、その3cmの段差だけは越えられないと言うことで、日中お一人になってしまう時にはヘルパーさんが定時でトイレ介助に入る事になっていました。

訪問リハビリでは、またトイレに一人で行けるようにと、歩行練習と併せて段差を乗り越える練習も計画していたのですが、不安感が強く練習すらままならない状態…。
このままでは勿体無いと思いながらも、ヘルパーさんに決まった時間にトイレに連れて行ってもらう生活にも慣れてしまい、ご本人も”一人でトイレに行けるようになりたい”という想いはどこかへ行ってしまったかのように思われました。

そんなある日、ご家族が帰られる前に便失禁をしてしまったそうで、仕事で疲れて帰ってきたご家族を怒らせてしまったとの事。
「私だって、行きたいと思った時に自分でトイレに行ければこんな失敗はしなかったのに」と悔しそうに私に報告して下さり、その日からその方は変わりました。

今まで何度促しても拒否されていた段差の昇降練習にも取り組まれ、やってみるとあっけないほど簡単に段差を乗り越えられることが分かり、そこからは以前の感覚を思い出しながら、段差の手前からトイレまでは歩いて行けるようになりました。

ご本人もちょっとずつ自信が付いてきたのか、ご家族がいらっしゃる時には車椅子介助ではなく歩いてトイレまで行くようになり、ご家族にも褒めてもらえたと、今度は明るい良い笑顔で報告してくださいました。

リハビリに携わる者として嬉しい瞬間でしたが、そのたった3cmの壁を乗り越えるための、心の支援が今まで出来ていなかったなぁと、自分自身の対応を反省した一件でもありました。

【お】