ベットの位置

高校生の息子さんと大学生になったばかりの娘さん。

二人の勉強机が置かれている部屋の真ん中に、父親の介護ベットが設えられていた。

 

今年3月に悪性腫瘍と診断されたときには、すでに転移をしていたという。

それからは闘病生活を繰り返して、最後を過ごすために、家に帰ってきた父親のベットだ。

 

「今は、おなかの張りがつらくて、全く食事をとることができない。でも水分は飲めている。そのうち水分も取れなくなるといわれている。そして寝たきりになり、意識が遠のくだろうと先生に説明を受けた。」とベットに腰かけた父親が静かに話す。

 

しかし顔色は決して悪くない。

「先生には、手の施しようがないといわれたが、これからいろいろ試したいことがある。ヨガやサプリメント、いろいろがんに良いと言われていることを試したい。」と目を輝かせる。

 

「あなたやご家族は、これからいいと思われることをどんどん試してください。当院の看護師がその間の生活の支援や体のバランス調整をします。またもし痛みや嘔吐が起こってきた時の対応は医師が行います。」私が答えた。

 

しかし私は気になっていた。

なぜ息子さんや娘さんの勉強部屋にこのベットが置かれているのだろうか?

 

ほかにも部屋がある。居間もあれば、夫婦の寝室と思われる和室もあった。だがあえて、最も奥に位置された子供たちの勉強部屋の中央にベットが置かれていた。

 

息子さんや娘さんも診療には同席していた。

二人とも正座して、父親と私のやり取りを見守っている。大学生になる娘さんは時々メモも取っていた。

 

私は気が付いた。

父親の闘病はこどもたちにとっても、学びだったのだ。

 

勉強部屋に置かれたベットが物語っていた。

大学生と高校生になるお子さんたちは、これから何を学ぶのだろうか?

 

「最後までここで過ごしたい。」父親が静かに話した。