すべて病気が治って、元気になって退院する。それがこれまで当たり前だったかもしれない。しかし高齢化社会でそうはいかなくなっている。
本日87歳男性の退院前カンファレンスに出席した。
もともと長年肺気腫を患っているうえに、肺がんを併発し、治療のために入院したが、入院中にも体の様々な部位に転移が見つかってしまったという。
まだまだ元気で、身の回りのことはできるが、最近では下痢が始まり、少しずつ食事がとれなくなっている。
奥さんも80代、多少認知症気味で、何度も同じことを聞くほどで、薬の管理などは無理。10剤以上の薬を飲んでいるのに・・・
下痢がなおり、食事がとれるようになったら退院しよう。ある意味、普通のことだ。しかし、本当にそうなって帰れるという保証はない。
もしかすると下痢が止まり、食欲も回復して、今以上に元気になって帰れるかもしれない。でも、年齢や病状から考えると次から次へと悪いことが起きるのではないだろうか、そんな思いに駆られたとき。
娘さんが言う。「この年末に家族で温泉旅行に行こうと予約しました。」
誰もがそれは難しいことを知っていた。でもその目標を達成するためには、下痢が止まるまで待っていてはいけない。食事がとれるようになるまで待っていてはいけない。まずは帰れるうちに帰ることしかない。だからすぐに帰ることになった。
高齢者が退院するためには、できないことをできるようになるまで待つのではなく、今できることを大事にするしかないのだと思った瞬間だった。