20年ぶりの恩返し

 

昨日、懐かしい人々に合うことができた。

自分が若い時にお世話になった方々だ。

 

私は研修医を浦和で過ごした。

その当時、私に目をかけてくださった方々だ。

 

その浦和で開かれる講演会で、私に在宅医療の話をと声かけてくださったのは、ハーモニークリニックの中根晴幸理事長。中根先生は私にとって生涯の恩人でもある。当時右も左もわからない一介の研修医だった私を在宅医療の道にいざなってくれたのは中根先生だったからだ。

 

「英君。これからは在宅医療の時代になるんだよ。」そんなことを中根先生は何度も研修医の私に言ってきかした。在宅医療って何?という感じでちんぷんかんぷんだったが、何となくそんな気もすると私も思えた。

 

そんな中根先生に、浦和で在宅医療の講演をするようにと言われたとき、申し訳ない気持ちと、少しでも恩返しできたらと思う気持ちで、講演会に臨ませていただいた。

 

昨日の講演会では私はほとんど在宅医療の医療的側面はお話しせずに、業務的側面についてお話しした。

 

最近外来を始めてみると、改めて在宅医療は様々な業務の集約が重要であるということに気づかされる。

その業務をこなす能力こそが、在宅医療の大きな柱になる。

24時間365日対応する業務。ケアマネジャーや地域の方々と連携をとるという業務・・・これら様々な業務の確立があって初めて、熱意や情熱のある在宅医療ができるという風に思えるからだ。

 

今日の私の講演が、少しでも御恩返しになったかどうかはわからない。

 

でも私の原点である。医療の故郷に触れることができて、楽しいひと時だったことは確かだ。

様々な昔の情景がフラッシュバックしてきた。懐かしいひと時だった。

小児科研修・2

この日曜日私は朝9時から夕方5時まで、小児科研修をさせていただいた。私の研修先の国立国際医療研究センター病院は小児科医が20名も在籍する小児医療の充実ぶりだ。だから、小児の3次救急医療機関でもある。その日曜日の当直ぶりを見学させていただいた。

 

日曜日だが、小児科だけではなく内科、外科の当直がいるために、患者さんがひっきりなしに来院する。当直を担当するのは若いレジデントのスタッフと、さらに若い研修医だ。たった二人で朝8時半から夜8時半までの外来と病棟業務をこなす。

 

私は足手まといになるのではないかとハラハラしながら、見学させてもらっていた。

 

小児救急医療はある意味在宅医療から最も離れた医療分野でもある。

それだけ私にとって新鮮で、驚きの数々である。

 

疾患も異なれば、背景も異なる。

だから問診も異なれば、診察の仕方、採血など検査の組み立て方、治療の仕方などすべてが異なっているからだ。

 

まったく研修医以下の動きしかできない。

私は、時間が過ぎるのも忘れて、若い二人の一人一人の患者さんの対応に目を見張る。

 

ほかに頼ることができないから、二人がお互いの動きを見ながら、瞬時に自分の動きを決めていく。「先生が外来で問診や診察している間に、私は病棟に上がります。」

彼らは意識していないだろうが、彼らの動きには神々しささえある。

 

彼らの使命感こそが素晴らしい。

 

現場を担っている。自分たちが支えになっているという感覚。

必死になって走り回っている。迷ってもいる。悩んでもいる。そして

現場感覚をもって仕事ができるためには、どういう要因が必要なのだろうか?

 

 

私が見学している間に、9人の小児が受診して、3人が入院になった。

 

最後にレジデントの先生が申し訳なさそうに言う。

「本当にバタバタしていて、きちんとお話しできずにすいませんでした。」

申し訳ないのは、私のほうなのに・・・

クロワッサン

クロワッサンスペシャル「親を看取る」が出版された。

みなさんご存知のように「クロワッサン」という雑誌は、介護や医療に全く関係のない雑誌です。ちょっとおしゃれな生活情報誌のような感じの雑誌です。愛読者は多岐にわたりますが、どちらかというと30代から60代ぐらいの女性が多いといいます。そんなクロワッサン編集部から、「親の介護や看取りなどの準備をしなければならない世代の読者層が多いので、読者にとって道標になるようなムック本を作りたい。」という依頼があったのは、2か月前のことでした。

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それから、編集者やライターの方との議論が始まりました。

「脳梗塞の場合はどうなのでしょうか?」「がんの場合はどうなのでしょうか?」いろいろな質問が飛び交います。まったく介護のことなど考えたこともない、親の看取りなども思ったこともない編集者やライターの方が素直にいろいろな質問をぶつけてきます。

その一つ一つの質問に答えながら、私は考え続けました。

 

もっと一つ一つの事象に振り回されず、親に起こることに対して、冷静に対処できるように読者に伝えるためにはどうしたらいいのだろう?と何度もディスカッションを続けました。実際の在宅患者さんにもご協力いただき、診療場面にも来ていただきました。

私の長時間の講義を受講していただきました。

一緒にビールを飲みながら、ああでもない。こうでもない。という議論もしました。

 

でもいつも、お互いに不消化な感じが残ったのです。

 

「何とか今日伺った話をまとめてみます。」まるで難しい宿題を出された学生のように頭を抱えながら帰るライターの姿を見ながら、「どうやったらうまく伝えることができるだろう?」と私も頭を抱えることがしばしばでした。

 

でも、そんな苦労のあった雑誌がとうとうできました。

 

びっくりしました。

これまで見たことがないような素敵なだったのです。

介護や医療に素人の方々が作った本だから、きちんと内容を伝えられないのではないか?という私の思い上がりが恥ずかしくなるような本でした。

 

まだ体験したことがないことだけど、一生懸命どうしたらいいのか?読者と一緒に考えようとする姿勢が伝わり、文章はもとより、写真やイラストなどすべてに思いやりが感じられる本当に素晴らしい本です。

 

正直頭を殴られたような感じがしました。

 

介護や在宅医療がわかった人が書いた本ではなく、まだ介護など体験したことがないライターの方や編集者たちが、自分たちがこれから直面する問題に、自分たち、そして読者のために、真摯に道しるべを探そうとする本だったからです。

 

本書は介護や医療のプロは決して作ることができない本です。

素人だからこそ、だからこそ自らの問題としてきちんと向き合って作った本なのです。

 

このような本の作成のお手伝いができたことをありがたく思っております。

 

咳には咳止め?

外来には風邪の患者さんが多数いらっしゃいます。風邪には鼻水やのどの痛み、発熱などいろいろな症状があるのですが、中でも咳で苦しんでいる患者さんは少なくありません。

ここでは咳についてまとめておきます。

どんな治療もそうですが、症状を抑え込もうとする治療と、症状の原因を除去する治療があります。咳止めは咳という症状を抑え込もうとする治療、咳には咳の原因があり、その原因に対応することが大切です。

咳には湿性咳嗽と乾性咳嗽があります。からんだ痰を取ろうとする咳とのどの刺激などから出る咳で痰が絡まない咳です。基本的に咳止めを使用するのは、乾性咳嗽であり、湿性咳嗽は痰をしっかり出すための生理的作用なので、痰を出しやすくするための去痰剤などを使用しながら、むしろ咳をしっかりしていただきたいのです。

また咳止めだけでは効かない咳がたくさんあることも知っておく必要があり、そうした場合、咳の原因を考え、その原因を除去することが大事になります。

咳止め以外の薬での治療が必要な咳にはどんな咳があるのでしょうか?

慢性の咳を例に薬の使い方を簡単にまとめます。

 

・主に抗生剤による治療を中心とする咳

1・百日咳

百日咳菌による呼吸器感染症。特有の痙攣性咳発作を特徴として、回復には3カ月程度の時間が要するといわれています。発熱などの特徴的所見に乏しく、時には尿道炎などを合併することがあるといわれています。

2・非定型肺炎

比較的体力のある60歳未満の方に見られる、マイコプラズマやクラミジア、レジオネラ菌などによる肺炎で、頑固な咳が特徴で痰や発熱は少ないといわれています。

3・副鼻腔気管支症候群

慢性気管支炎などに慢性副鼻腔炎などが合併した病態。咳嗽や喀痰、呼吸困難や膿性鼻汁などを伴う病態。去痰剤などとともに、抗生剤治療を要することが多いようです。

 

・主に吸入ステロイドや抗アレルギー薬による治療を中心とする咳

1・アトピー性咳嗽

アトピー素因のある方に多く見られる咳であり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬などが有効。しかし吸入ステロイドを併用することも多い。

2・咳喘息

正式な喘息ではありませんが、喘息の亜型と考えられており、経過中に30%程度の方で喘鳴が出現し、喘息に移行しやすいといわれています。第一に吸入ステロイドの使用が勧められ、そのほかにロイコトリエン受容体拮抗薬などが有効といわれる。

3・喉頭アレルギーによる咳

喉頭異常感と執拗な咳を特徴として、抗ヒスタミン薬の内服や、時には麻黄附子細辛湯やステロイドの全身投与、重症の場合には気道確保などが必要な場合もあります。

 

・そのほかの薬が効く咳

1・胃薬が効く咳

胃食道逆流と呼ばれ、胃酸が逆流して咽頭を荒らすことで出る咳の場合、胃酸を低下させることで、咽頭の損傷を防ぎ、咳を出させないようにすることが大切です。

2・抗真菌薬が効く咳

慢性咳嗽の患者さんの喀痰から、高率に真菌が検出され、抗真菌剤が有効なことがあったといわれています。

3・トシル酸スプラタスト(IPD)が効く咳

肺がん術後に乾性咳嗽が持続するものにIPDを投与した場合、主観的改善が見られたとの報告があります。

 

以上咳止め以外の咳の治療について簡単にまとめてみました。