通過点

長年精神病院に入院していた。途中でがんを患い。精神病院では治療ができなくなって退院した。

そして今度は療養型病院に転院することとなった。その間、たった数日だったが自宅に帰ってきた。

しかし食道がんのために、食事はできない。唾液も呑み込めない。

そんなたった数日を支える在宅医療がある。

そんな人生がある。

勉強会

本年度、当院が外来を開始し、在宅医療のみならず、外来、検診などを始めるにあたり、私は様々な診療能力の拡充をする必要に迫られた。

幸い、様々な学びの場を得ることができた。そして今日は、今年度最後の勉強会だった。最後の勉強会のテーマは、腹部超音波だ。

これで当初予定した200時間以上の勉強をすべてつつがなく終わることができた。

在宅医療関連の学会や勉強会のほかに、超音波の勉強会、小児診療、内視鏡、胸部レントゲンやワクチン接種、様々なかかりつけ医勉強会などがあった。さらにプライマリケア学会やアンチエイジング学会にも参加した。

ほとんど毎週末を何かしらの勉強会に参加していたことになる。この年になっても、勉強し続けることの重要性を痛感した一年だった。

まだまだスタートラインについたばかりだが、このような機会を得られたことに、大変感謝している。

 

そして、何より家族にも・・・

 

 

医療の3要素

医療の役割には、治療、マネージメント、そしてサポートがあるように思う。

治療は言わずとしれた医療の中核で、病気を治すこと。

たとえば感染症を治す、がんを治すなど病気を治すことだ。病気を治すことで患者さんの人生や生活を改善する。医療の中核的役割である。

一方、マネージメントとは、糖尿病など生活習慣病を代表とするように、その病気自体の治癒を目的とするのではなく、薬物療法、生活指導などを組み合わせながら、その病気をきちんとコントロールすることで、合併症によって患者さんが傷つかないように管理、予防を行っていくというものだ。多くの慢性疾患の患者さんたちがこのマネージメントのために継続的に医療機関に通院されている。

そしてサポートとは、様々な病気や障害が複合化している人がうまく生活できるように支援することだ。リハビリや介護、生活の支援を行いつつ、時には医療者の寄り添いや励ましや症状の緩和などを図っていきながら生活の質を高めるというものだ。

この医療の役割の3要素はどれ一つが欠けても成り立たない。

もともと医療は治療から出発した。その後慢性疾患の増加によりマネージメントという手法を取り入れ、さらに今や高齢化社会の到来に合わせてサポートの重要性が叫ばれつつある。

この医療の3役割は、疾病の在り方や患者さんのありかたによってウエイトが異なる。たとえば病初期、自立度が高い時には治療的、マネージメント的医療が望まれるだろうし、病状が進み、虚弱度が進み、生活機能が低下するとサポーティブな医療の重要性が増してくる。高齢化社会、長寿社会をむかえこれらのバランスが変わりつつあり、治療からサポートへの流れが強まっているように思う。

認知症やロコモティブシンドローム、ザルコペニアなど昨今提唱され始めた疾患概念は、それぞれ高齢期にみられる知的、運動的、栄養的虚弱性を表す。さらにそれらを複合的にとらえるフレイルという概念があるが、これらはすべて治療やマネージメントに先立ちサポートを行うことが求められる。

在宅医療をしていると見えてくるものがある。高齢化社会の医療は、このサポートの重要性なのだ。一方で外来では治療とマネージメントが重要になる。医療者としてのバランスをとるうえでもこれらの双方のかかわりが重要になるのだ。

50メートル

今日、腹部大動脈瘤による下肢血流障害から歩行困難になった患者さんが、へとへとになって来院された。

もともとは午前診療の11時半の来院予約だったが、来院されたのは午後3時の午後の診療時間の開始時間だった。

 

律儀な彼は、11時半の外来予約に間に合うために、11時には家を出たという。

しかし途中で歩けなくなり、結局11時半には間に合わなかった。

それでも休み休み、這うようにしてやってきた。

結局は、家からたった50メートルの距離を4時間かけてやって来たということになる。

 

いくら暖冬とはいえ、2月のことだ。病弱な高齢者が4時間外にいれば、へとへとだ。

診察室に入るなり、コートを手荒く脱ぎ捨てる。

 

これから近くの病院で手術の予定だが、その間何度も病院に通う必要がある。

そして手術は3月中旬だという。その間、買い物もままならない。

 

「食事はできるのですか?」という私の質問に、「買い物に行けないので、食べていません。」と彼は答える。

 

「急いで介護保険の申請をします。」

「送迎もしますし、往診もします。」

「介護保険の訪問看護が始まるまで、医療保険の訪問看護で当院が対応します。」

 

私は矢継ぎ早に話し、スタッフに対応をお願いした。

帰りは、当院のスタッフが車いすで送迎してくれた。

 

その後、私は栄養剤を処方した。少なくとも買い物に行かなくとも、彼が生活できるように。そしてその後スタッフから方向をうけた。

「介護保険の申請を行い。そしてケアマネがかかわった。」

スタッフの相応能力がありがたかった。

 

たった当院から50メートルの距離にこんな人がいるのだ。

たった50メートルだから彼は何とかこれた。もちろん予約時間には間に合わなかった。

でもそれ以上では、医療機関に行けない人がどれぐらいいるのだろう。