ベトナム紀行

私は、日曜日からベトナムに来ている。

現在、東京に在留している外国人は、1位中国(台湾などを含む)、2位韓国、3位フィリピン、4位ベトナム、5位ネパールの順番だ。このうち上位3か国はほとんど増加していないが、ベトナムとネパールの在留外国人が急激に増加している。遅かれ早かれこれらの順位も大きく異なってくると思われるのだ。

直近の8年だけをとってもベトナム人は約10倍、ネパール人も約5倍に増加しているのだ。そしてその多くが、新宿区とその隣の豊島区に居住している。当然のことながら、当院の外来にもそれらの国の方々がいらっしゃる。だからそれらの国がどのような事情なのか知っておきたい。そしてそれぞれの国情に合わせた対応も少しずつできるようになればという思いがある。

 

ネパールでは、日本の大正期や昭和初期のような状況を垣間見る思いだった。疾病構造も生活習慣病や高齢疾患などよりも、若年者や乳幼児の感染症や急性疾患対応が課題のように思えた。

しかし一方、今回訪れたベトナム(私が訪れたのはホーチミン市)は、さながら高度成長前の日本のような雰囲気で、物価的には日本の1/3程度、街には小さい商店がひしめていて、道路は車やバイクで混雑しており、客引きなどの多さには、圧倒されるが、町全体の活気は大変なものであり、そのほか電気、舗装道路、高速道路などの生活インフラも整っており、さらに今後は地下鉄などが整備される予定であり、街全体が急激に発展しているように思えた。

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日本も第二次大戦後に急激に発展したが、ベトナム戦争という大きな傷跡からの復興を考えると、たった40年程度だが、今後さらに発展していくことが想像に難くない。

 

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ネパールからの友人

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10月にネパールに行ったときに知り合ったDrShujunさんとその友人の竹内さんが東京に来てくれた。

 

ネパールでの邂逅は、ごく短時間で、挨拶程度だったので、それぞれの事情やバックグラウンドがわかるほどではなかった。

 

DrShujunさんと竹内さんはお互い北京大学の学生時代の友人で、今でもネパールで交流を持っているという。今回は竹内さんの帰国に合わせて、DrShujunさんが来日した。せっかくお二人が日本にいるのなら、ぜひ東京で、お目にかかりたいという私の招きに応じてくれる形で、2か月ぶりの邂逅となった。

 

かつてネパールでは、結核患者は少なかった。しかし最近急激に罹患が増えているというのだ。ネパールは今、昭和初期の日本のように急激な地価の上昇や金利の上昇などが続いており、ある程度の資金を持っている場合、その運用だけで、かなりの収益を上げることができる。その元本資金をネパール国内で稼ぐことは困難だから、海外である程度の期間を働き、その資金を確保したがる若者が多いという。だから今は日本に来るネパール人が増加しているというのだ。

 

かつては、日本のネパール国内での国際協力も盛んだったという。しかし今や日本からの国際協力も規模が小さくなっている。いま日本の景気がある程度回復しているから、日本に来るネパール人が増えているという側面も大きいらしい。

 

今後もネパールからの在日外国人が増えるかどうかはまだまだ流動的と言わざるを得ない。

日本の経済状況、政治状況などに大きく左右されるだろう。

 

しかし、私のたった2日間のネパール滞在での知り合いと2か月後東京で邂逅でき、お互いの国情や医療状況を語り合える時代。

 

それだけ人事交流も情報交流も自由な時代。

いつかアジアは一つ、病気も一つ、いつか地域医療も一つとなる時代が来ないとも限らないではないか。

 

そんなことを感じる年末のひと時だった。

 

旅の終わりに。

これまで、大久保のネパールの人たちを見ていて、国内に滞在するネパールの人たちの医療対応はどうあるべきかということを考えてきた。特に大久保の一次医療を担う当院にとっては、結核対策が喫緊の課題だった。

 

個人的には、無料結核検診をした方がいいのではないかと考え、区役所など関係諸機関との調整も行いつつある。しかし今回の旅行で、感じたのは、それでは遅いし、実は根本的には問題の解決にはなっていないことだ。

日本に来る前からの対策こそ重要性だったのだ。

大久保の外国人率は、大久保二丁目が37%、大久保一丁目は47%に及んでいる。その中で少なくない人がアジア、しかも貧しい国から来ている。すでにこれだけ人的交流が国際的になっている以上、各国の感染症対策、保健衛生状況の改善を任せて、大久保に来た人だけの対応することでは追い付かなくなってきているのではないだろうか。

 

これは大久保だけの問題ではない。日本全体の国際化やアジア化が進んでいくとき、積極的とは言わないまでも、時代の流れに後手に回ってはいけないと思う。

特に医療はそうだ。・・・・・なぜなら苦しむ人が増えるからだ。

 

今回の旅行で、現地の保健衛生とのコラボレートが必要ではないだろうか?と思えるようになった。

今回は単なるツアー旅行、しかも2泊3日と短期間だったが、幸い何人か現地に信頼できる知己を得ることができた。

まだ何ができるかわからないが、行動は起こしていく必要がある。

例えば、現地と協力し来日前から、日本語や日本の事情について理解をしていただくと同時に、しっかりとした感染症のチェックなどを行ったうえで、積極的に外国人を受け入れていく。そんな努力があってもいいのではないか。

そして今回のネパール旅行で感じたのは、実は問題なのは単なる医療だけではない。そこには保健衛生、さらにはそのベースを形作る経済や保健行政の在り方、教育や文化、社会の在り方なども一緒に考えていく必要があるということだ。

日本が失ったものが何で、ネパールが得てないものは何なのか?お互いに補完しあえるものはないのか?

これからの自分の一つのテーマとなった旅だった。

NATIONAL T.B. CENTER

IMG_0312 IMG_0332この国はまだ結核の高蔓延国としても知られている。今後日本で過ごすネパール人の増加に伴って、大久保でも結核対策が急がれている。

最期にガイドが案内してくれたのは、NATIONAL T.B. CENTERである。この施設はネパールの結核施設であるだけではなく、近隣諸国の結核エイズ対策の中心的施設にもなっているらしい。

ここには入院施設はない。しかし連日朝から結核診療を行っており、保健制度の無いネパールにおいて、国民が気軽に結核診断、治療を受けられるようになっている。

真ん中に中庭を有した回廊式クリニックで、回廊を回りながら、喀痰、採血、胸部レントゲン、そして診察、さらには投薬を順に受けることができる。

入院施設無いという。だから入院が必要なら、離れた病院での入院になる。あくまでもここは、外来での結核の初期診断、早期治療を目指した施設ということになるらしい。

私たちが来訪したのは昼前だったが、すでに検査などが終わって、診察を待っている人たちがいる程度で、それほどの混雑ではなかったが、毎朝非常に混んでいるとのことだった。

このセンターが日本の協力によってできたこともうれしいことだ。IMG_0323