総合診療医の育成

1484462294393今日私は、地域医療研究会が主催する、今後の総合診療医の在り方についてのシンポジウムに出席してきた。

急激な人口の高齢化、疾病構造の変化を受けて、地域医療が担わなければならない医療分野が大きくなってきている。従来の一次医療の担い手としてだけではなく、リハビリテーションや生活に密着する医療や在宅医療など、地域生活する様々な人を支える幅広い担い手としての地域医療者の増加が必要と叫ばれている、。したがって医療界特に在宅医療を含めた地域医療課題には、次世代の良質な地域医療者をどのように育て、活躍し続けてもらうのかということに大きな関心が集まる。

その中で、今後特に、期待されているのが総合診療専門医である。

本来ならば今年の4月より日本専門医機構が中心となって、専門医制度が始まり、総合診療専門医の育成が始まるはずだったが、さまざまな議論が錯綜する中で、延期になってしまっている。

それでも総合診療専門医を育てたいという熱意がそがれることはないばかりか、ますます熱く議論されているのが実情である。

数多くの総合診療専門医を育てるためには、すぐれた指導医、優れた研修システム、研修期間中の待遇の保証、さらには将来のキャリアプランが見えることなどが重要だ。

 

しかし何より、さまざまなニーズにこたえながら、患者さんに喜ばれる医師、地域に喜ばれる医師、それを生きがい、やりがいに感じられる医師をどれだけ育てられるかが重要と感じた次第である。

謹賀新年

旧年中は大変お世話になりました。

今年もよろしくお願いいたします。

 

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ところで私は年末年始、初詣を兼ねて京都に伺いました。

国際的観光地である京都だから当たり前なのでしょうが、非常にたくさんの外国の方々がいらっしゃいました。

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有名な観光スポットは外人ばかり、駅の観光案内も英語、中国語、韓国語での表示が当たり前、外人専用の観光相談も珍しくありませんでした。

ところで昨年、当院の外来にも多数の外人の患者さんがいらっしゃいました。

韓国、中国、ベトナム、チベット、モンゴルなどなど・・

皆さん、国民健康保険を持っているのです。

「3か月を超えるビザを持つ外国人は、日本では住民登録することになっています。日本の住民であれば国民健康保険に加入する義務があります。」

新宿区役所に問い合わせると明確に答えてくださいました。

すでに50%に近い住民が外国人である大久保では、外国人の方に対する医療もまた、地域医療の課題になっているのです。

いや、日本全体の課題に・・・生まれながらの国民のための医療だけではなく、日本を選択した人にとってもいい国・いい医療であってほしいものです。

 

自立支援としてのかかりつけ医療

大久保には様々な方が居住している。外国人も、お金のない人も、生活が破たんしている人も・・私はよくスタッフと話をしている。ここは将来の日本の縮図になるかもしれないと・・・

そして外来では日々、大久保なりのドラマが繰り広げられている。

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一昨日に受診した48歳の男性は糖尿病・・・だが、これまで当院には不規則な通院しか、されていなかった。生活もめちゃくちゃならば、薬も勝手に中断するなど、決して聞き分けのいい患者さんではない。しかしいつも笑顔で悪びれずに私の外来に通ってきていた。

それでも一昨日来た時には、これまでと様子が違って、妙にしおらしい。理由を聞いてみると、数日前から右足が腫れていたい。歩くことも困難だといって困り果てていた。

糖尿病の患者さんは様々な感染に弱いことが知られている。この方は血糖値も悪いし、足に感染を起こしたことも容易に想像できた。

ここでキチンと治療しておかないと、取り返しがつかなくなる。早速入院治療を勧める私に彼が答える。「この2か月仕事してなくて、所持金も底をついています。ここに来るのもやっとなんです。ここでの支払いもできるかどうかわからないのに、入院なんかしたら、いくらかかるかわかりません。入院はしません。」ときっぱり言う。

しかし私もここは負けられないから、説得する。「採血では血糖値が非常に高くなっています。至急入院が必要な状況です。お金のことは何とか病院と相談しようと思います。」と、そして早速当院のソーシャルワーカーにそういう事情でも入院できる医療機関を探してもらった。幸い事情を理解してくれた近くの病院が受けてくれた。何とか頼み込んで、即日入院の手配ができたが、今度は病院まで行くことができないという。救急車はあまりに大げさだし、タクシーに乗ることもできない。そこで出番になったのは、当院の送迎サービスである。当院では以前から往診車や車いすの乗れる車を使って数多く方の通院介助をしている。ほとんどは当院への通院介助だが、今回はその車を使って病院までの送迎をすることとなったのだ。昨日のことである。

今日、入院した彼を見舞いに行くと、少し足が軽くなったようで、足を引きずりながら、病院の中を歩いていた。「病院のソーシャルワーカーが協力してくれて、生活保護などの申請もしてくれることになりました。」と言って感謝された。

 

今後彼は病気の治療に専念して、まず体の調整をすることになるだろう。その間福祉のお世話になって生活の調整、そして社会性の向上を目指すことになる。まだまだ若い彼だから、再び社会に出るようになることも必ずできるだろう。その間を支える医療。それが自立支援型の医療ということになる。

 

このようにかかりつけ医療は生活・身体・社会性など様々な虚弱性が合併している人を支える医療である。ときにはソーシャルワークが何より大事になり、送迎サービスなどが広がりを持たせることができる。今回の彼の入院には多数のスタッフが尽力してくれた。外来担当の医師・看護師・事務スタッフ・ソーシャルワーカー・そして送迎のアシスタントたちだ。

数多くの虚弱者が居住する大久保で私たちが複合的なかかりつけ医療を模索するには理由がある。

このように私たちは多職種共同でかかりつけ医療機関を運営している。そして私たちが目指していることは一つ、どんなに虚弱であっても、適切な対応や支えを構築すると、その人なりの人生を再出発できるし、その人なりの自立性を高めることができるはずだということである。

 

かかりつけ医療を支えるのは、そういう理念なのである。

よりよく生きるための知見

今日私は、お茶の水の日本大学病院で開かれた「下部尿路機能障害講習会」に出席した。本講習会は、日本老年泌尿器科学会、日本泌尿器科学会、日本排尿機能学会が共催で、病院入院中の持続導尿の患者さんの排尿自立を図るためのチーム(医師、看護師、理学療法士)の養成のための講習会でもある。したがって、参加者はほとんど病院勤務の医師だったので、やや場違いな感じもあったが、私も外来、在宅の現場で、普段から高齢者の頻尿や尿閉、失禁などの診療に従事している立場であり、しかも最近では、自分自身も前立腺肥大や失禁、夜間頻尿などを自覚することも多くなったという個人的事情もあり、まとまった講義を伺うまたとない機会だったので、急きょ日本老年泌尿器科学会に入会し、本講習会に参加させてもらった。

 

一言で排尿の問題といっても、非常に複雑な病態生理がかかわっており、たとえ泌尿器科医といえども、評価、治療、そしてケアなどにはなかなか難渋することが多いという。

加齢によるものや、薬物によるもの、疾患によるものなど、さまざまな理由が加わり複合化しているし、排尿、畜尿には、さまざまな中枢、神経、筋肉などが関与しているために、障害部位の特定も困難である。しかし少しずつ、さまざまな検査、薬物療法、ケアの仕方などの知見も広がってきている

 

また在宅では、尿道カテーテルが留置されたままになっている高齢者が少なくない。その多くは入院時に尿閉もしくは排尿障害が見つかり留置されたものだが、抜去のタイミングを失い、そのまま帰宅している人たちだ。今回の研修会では、主に入院の患者さんのバルーン抜去の仕方が中心だったが、在宅でのバルーン抜去についても、明確な指針をいただけた。

現在の尿道留置カテーテル使用中の人でも、排尿自立ができるようになる人や、間欠導尿、夜間持続導尿などを併用することで、完全留置から離脱できる人が少なくないというのだ。

 

また外来で数多く相談を受ける失禁や頻尿についての問題に対するアプローチも明確になった。年を重ねていくと、必ず遭遇する問題に、下部尿路機能障害がある。

その障害とうまく付き合うためには、どうしたらいいのか、という知見にあふれる講習会であった。

 

下部尿路機能障害とは、在宅、外来患者さん・・そして自分、それぞれがよりよく生きるために大切な知見が詰まっているようである。

 

排尿の問題を持っている方は、私にこっそりとご相談いただきたい。

私にできることは少しかもしれないが、改善できる方法が必ずあるという実感を持てた講習会である。