高齢疾患としてのがん

本日私は向山先生と、日本橋で開かれた第4回がんサポーティブケア研究会に出席した。がんサポーティブケアとは聞きなれない言葉だが、私たちも今まさにがんの在宅医療からがん全体のサポーティブケアの在り方について思いを巡らしているので、大変関心がある研究会だった。癌研や聖路加、がんセンターなどがん医療に携わる様々な医療者が集まり、がん治療中の症状コントロールを含めて、がん患者が直面する問題を討議する会だった。

そしてそこで昨今創設されたばかりの「日本がんサポーティブケア学会」の田村和夫会長の講演を聞く機会を得た。

講演の中で、田村会長が話す。「がん患者の80%は60歳以上であり、がんで亡くなる患者さんの80%以上が65歳以上である。」と。

今の60歳や65歳はとても元気だ。だから高齢者だからといっても必ずしも虚弱ではない。しかし確かにがんを患っているが、全身状態の低下はパーキンソン病によるという患者さんもいる。入院してがん治療を受けるのはいいが、その間に認知症などの障害が進んでしまう患者さんも少なくない。

今後がんの患者さんの支援は単に治療ではとどまらない。生活支援、介護、環境整備など様々な支援が必要である。

がんサポーティブケアという新しい概念を私たちは今模索し始めている。

 

 

 

 

様々な医療ニーズ

外来をしていると、病気の予防のために、様々な生活習慣を是正し続けなければならないという患者さんが少なくない。しかしすべてが理想通りにはならない。様々なバランスの中で人間は生きているからだ。

飲酒さえやめれば、喫煙さえやめれば、暴飲暴食さえやめれば、そして規則正しい生活をすれば、薬などいらないで、もっともっと健康的でいられる。

そんなことはわかっていても、なかなかそうはいかない。

 

飲酒をしながらも、ある程度健康でいたい。

喫煙や暴飲暴食をしていても、それなりにバランスよく過ごしたい。

飲酒をしながら、肝機能の定期チェックをしたいという人、アルコールを飲みながら、尿酸のコントロールをしたいという人、そういう人が診療所に通ってくるのだ。

 

理想と現実の違い。一気に理想的な生活はできないまでも、まず今の状態で少しバランスをとりながら、徐々に理想的生活を目指そうという人たちなのだ。

私たちはそういうバランスも大事だと思っている。

 

それぞれの人の事情に応じた、健康の在り方・・・ひいては人生の在り方を健康のプロとしてアドバイスし続けることもかかりつけ医療の大事な役割だからだ。

 

一方で、病院には、理想的生活を送りながら、きちんと定期通院して、さらに厳密に医学的管理もしていくというハイエンドの医療ユーザーが多いように思う。

こういうハイエンド医療ユーザーから見ると、診療所の医療はややいい加減、かつあいまいな感じがするかもしれない。

 

また、逆に在宅では時に医療不信にも近く、これまで医療の管理や介入を避けてきたという人も少なくない。

在宅診療で初めて訪問した際に、「この人は医者嫌いで、これまで・・・・・・」という言葉を何度耳にしたものか。

 

人それぞれの人生があるように、人それぞれの医療とのかかわり方がある。

医療の在り方を押し付けるのではなく、それぞれの事情をまず優先し、できる医療を探していく。それがこれからの医療のスタンスのかもしれない。

待合室というフィールド

当院では4月より専門外来が充実した。

従来の内科、皮膚科、整形外科をそれぞれ枠を増やすと同時に、小児科、総合診療科などが稼働している。夜間や土曜日外来も開始された。このような様々な窓口が増えることで、より多くの地域住民の方々の健康維持増進に貢献できたらと思っている。実際受診される患者さんも増加してきている。

そうなると待合室がやや混雑しているように見えることもある。椅子が足らなくなるなどということは全くないのだが、待合室に5~6人でも座っていらっしゃると、待ち時間が多少長くなった患者さんのことが気になる。

通り掛けに、声をかけてみたり、挨拶してみたりしながら、私もそれとなく気遣う。

それぞれの現場で、医師は医師なり、看護は看護なり、事務は事務なりに頑張っているがどうしても待ち時間が長くなりがちになる。そんなとき、少し気になる患者さんの横に座って、雑談するようにしている。

その雑談で見えてくることがある。

「実は先ほど診察室では、言えなかったが、もう少しこんなことも相談してみたかった。」とか

「やはり検査をもう少ししてもらえばよかった。」とか

実に様々な振り返りがあるのだ。これは待合室が混めば混むほど振り返りが大きくなるようだ。

 

診察前、待合室に待っているときには、診察室に入ったらこういうことを相談しよう。ああいうことも相談しようと気負っていても、実際に診察室ではすべてが相談しきれるものでもなければ、すべてが解決しきれているわけでもない。ついついほかの待合室に並んでいる患者さんのことも気になってしまい、相談を控える方さえいるのだ。

診察が終わって再び待合室に帰ってきたときに、ああすればよかったとか、もう少しこうしてほしかったという後悔の念が生まれてくる。

そういう気持ちの拾い上げがとても重要だ。

その中から新たな疾患の可能性が見えてきたり、今後の検査方針が見えたりすることもある。

当院では待合室付きの事務スタッフが常時いるようにしている。そのスタッフに気軽に声をかけていただければと思う。

診察が終わったのだから、すべて終わりではない。まだまだ気になることがあったなら、遠慮なく相談してほしい。私もこれまで以上に積極的に待合室でみなさんと触れ合いたいと思っている。そんな交流こそが、診療所の醍醐味なのかもしれない。

 

みなさんの診察後のつぶやきこそが、新たな診療所の在り方を決めていくのだ。

 

輸入感染症としての”はしか”

今日、私は初めて新宿区小児科医会に出席した。

これまで細々と小児在宅医療を行ってきたが、小児医療をしているとはなかなか言える状況ではなかった。

しかし今後は小児医療も本腰を入れて、対応していこうと思っている。たまたま新宿区小児医会は小児専門医だけではなく、一般医も参加でき、しかもとてもフランクな会だと伺い出席させていただいた。

小児科の先生方との懇親は、新しい知見に触れるまたとない機会だ。

その中で、私がびっくりしたのは、今や小児専門医でも”はしか”を見たことがない医療者が多いということだ。

ある大病院の先生がお話しする.。「インドネシアから来た皮疹のある小児患者でコプリック斑をみた。」

長年小児診療に携わっている小児科専門医がどの医学の教科書にも載っているコプリック斑を見たことで、感動しているのだ。

日本では、すでにワクチン接種のおかげで様々小児感染症が克服しつつある。今や麻疹でさえも全く見られなくなり、撲滅宣言まで出ているということに私は驚愕した。

ここまで日本の小児医療は成熟しているのだ。