ガイドライン時代の医療とは?

医学や医療の在り方もその時の時代ニーズによって大きく左右される。

かつて多くの小児が、感染症や様々な事故などの急性疾患で命を落としていた時代は、感染症や小児疾患に対する医療の充実が喫緊の課題だった。しかし幸い、様々な社会努力により、これらが徐々に解決され、小児疾患が少なくなってくると、その後、結核やがん、生活習慣病などへの疾患対応が大きな課題として取り上げられるようになった。

昨今は高齢者の増加を迎え、認知症や骨粗しょう症などの高齢疾患への対応が急がれている。

しかし、いくら高齢疾患の時代になったとしても、小児疾患や成人疾患の重要性はなくならない。むしろそれぞれの疾患が違った課題を呈するようになっている。

例えば水ぼうそうは小児の代表的ウイルス感染症だったが、最近はワクチンの普及により、水ぼうそうを発症する小児は激減している。そのおかげで、水ぼうそう患者に触れることがなくなったので、成人の水ぼうそうの免疫力が低下しているというのだ。小児の時に水ぼうそうを患ったことのある人の体内には、水ぼうそうのウイルスが潜んでいる。それが免疫力によって抑えられている。その免疫力が低下していくと、潜んでいたウイルスが暴れだす。つまり高齢者になるとさらに免疫力が下がっていくことで、帯状疱疹という別の病気の形になって発症しやすくなっているのだ。最近では、水ぼうそうに触れなくなった成人や高齢者の帯状疱疹の発症が急激に増加している。

このように同じウイルスでも、かつては小児で問題だった感染症が、小児では問題にならなくなり、高齢者で問題になるなど、その時の時代状況によって異なった課題を医療界に突き付けている。

また糖尿病なども成人にとっては、失明や、腎不全、足などの壊疽の原因になりえる非常に怖い病気だが、高齢者にとってはこれらの合併症はもとより、認知症や骨粗しょう症を進めやすくなるといわれている。今後は糖尿病のコントロール目標も変わっていくことが予想される。

糖尿病だけではない。様々な疾患がそうである。さらに新しい治療や診断方法も日進月歩に進歩している。いくら勉強会や、研修会に出席しても、様々な本や文献を読んでいても、これらすべてについていていくことができなくなっている。そういう時代には、ガイドラインというものがもてはやされる。

多くの学会がその時々の病気のマネージメントの仕方をマニュアル化して、わかりやすく簡潔にまとめる形でガイドラインの普及を図っている。そういうガイドライン通りの医療を行っていくことで、これら時代の状況にマッチしていく必要があるというのだ。

しかしガイドラインも万能ではない。新しい病気に対する新しい治療などがガイドラインに乗るには時間がかかるからだ。いまわたしたちガイドラインを参考にしつつ、新しい知見を補充していく努力が不可欠な時代になっているのだ。

振り込め詐欺

感謝状 (003)

感謝状

高齢者を狙った犯罪が後を絶たないという。特に独居や老人同士世帯などでは、頻回に振り込め詐欺の電話がかかっているというのだ。

 

先日、当院の理学療法士が振り込め詐欺の現行犯逮捕に貢献したということで、当院は新宿警察より表彰を受けた。スタッフの功績を誇りに思うと同時に、そのような事件が後を絶たないことに対する憂いも感じる。

 

たまたまそのスタッフがご主人のリハビリテーションを行っているときに、奥さんに電話がかかったという。横で聞いていたスタッフが、どうも奥様の電話の様子がおかしいことに気が付き、奥さんを説得しようとしたが、すっかり騙されている奥さんは、スタッフのいうことを信じない。仕方ないから、警察に電話して、警察官に説得してもらい。そのあと犯人逮捕につながったということだ。

 

たまたまかかった電話の様子だけで異変に気付いたスタッフの適切な対応に頭が下がる。

しかしこのようなことがおそらく介護の現場では少なからず起こっているのではないかとも恐れる。

 

うれしく、誇らしい表彰だった。しかし一方で手放して喜べない表彰でもあった。

私が嫌いな言葉

私の嫌いな言葉がある。

「私の担当ではない。」とか「私の専門ではない。」という言葉だ。こういわれた時の人の気持ちを考えると、せっかく相談したのに・・・冷たくあしらわれた。という感じが否めないだろう。

 

当院は地域の方々の様々な問題に対して第一義的に対応している。

時には医療的問題とは言えない問題でのご相談もあるだろう。

時には自分たちだけでは解決できない問題もあるだろう。

でも私たちにできることは何だろうか?少しでも手伝ったり、適切な施設に負担なくつなげるためにはどうしたらいいだろうか?少しでも考えて努力していく必要がある。

 

たとえすべての答えが得られなくとも、そのような姿勢は評価してもらえるのではないか?

それが医療機関の評価でもあると思えるのだ。

当院ではメール相談や看護療養相談など、いろいろな相談窓口がある。そこには、いろいろな相談事寄せられる。医療的問題とはいえない問題も少なくない。

しかし社会生活上困ったこと全般に対応するプライマリケアにおいて、これらの相談はとても重要だ。それらに耳を傾け、一緒に悩んでいく姿勢こそが我々に望まれる姿勢なのだろう。

寿命はどこまで伸びるのか?

明治、大正のころ、日本人の平均寿命は40歳代だったといいます。50歳を超えたのは昭和22年、歴史的に見ればつい最近の話なのです。

ちなみに漫画「サザエさん」の舞台になったのは1949年(昭和24年)です。そして主人公サザエさんのお父さんである磯野波平は54歳です。当時の平均寿命は男性が56.2歳、女性が59.8歳でした。だから当時、波平は、もうすぐ平均寿命年齢に達しようとしていたといえます。今の同年代に比べて波平が老けて見えるのも、致し方ないのかもしれません。

それから60年以上の月日が経ち、今や男性の平均寿命が80.5歳、女性が86.8歳となっています。このように平均寿命が延びたのは、国民皆保険制度の施行により、医療受診機会が増えたこと、栄養状態の改善や感染症治療の進歩などにより乳幼児や小児の死亡が減ったこと。高血圧治療の進展や生活習慣の改善などで、成人の死亡が急激に減ったこと。などが理由と言われています。

そして今や多くの人が75歳以上の後期高齢者になるまで人生を全うできる時代を迎えています。つまり今や多くの日本人が、後期高齢者になり、最後は高齢疾患や虚弱化によって亡くなっているのです。しかし昨今はこの後期高齢者が罹患する疾患や虚弱化因子の解明と改善に大きな進歩が見られ始めています。認知症の機序が解明されつつあると同時に予防や治療が進みつつあります。骨粗鬆症やロコモーティブシンドロームに対する知見や予防、治療も急速に広がりつつあります。

このような高齢疾病に対する医療の進展のほかに、さらにアンチエイジング医学がいま脚光を浴びています。いつまでも若々しく、元気でいたい。そう考えるのは誰しも当たり前でしょう。そのための様々な方策が模索され、実際に成果を上げてきているのです。

そうなるとさらに平均寿命は延びるはずです。人生100年という時代もあながち夢ではなくなってきました。歴史上もっとも長寿だったのは、フランスの女性のジャンヌカルマンさん(1875~1997)だといいます。彼女は122歳で世を去りました。つまり人間は120歳まで生きる可能性を持っていることになるのです。

皆が元気で若々しくいたいという努力を続けることで、いつしか120歳まで生きられる。そんな世の中が来るかもしれません。

しかし今多くの高齢者の方たちがつぶやきます。「こんなはずじゃなかった。」と。

高齢化社会の真の問題は、皆がいつまでも若々しく元気でいられるようになることではなく、何のために若々しく元気でいたいのか、ということなのかもしれません。