旅の前

IMG_0213おぼろげにネパールに行きたいと思ったのは、今年の春だった。

 

当院にはネパール人の患者さんが少なからず来院している。大久保は日本有数のコリアンタウン。だから、韓国の人が多いことには驚かなかったが、来院する外国人の中でネパールの人の多さは、韓国の人に勝るとも劣らないぐらいなのだ。

 

ネパールの人は皆、人懐こい。外来が混んでいるときもじっと待っていてくれる。風貌は全く異なるが、日本人的な感性を持っているように思える。

 

あわただしい外来の合間では、せいぜい「どこから来たの?」「来日してどれぐらい?」それぐらいしか聞かないが、それでもたどたどしい日本語で答えてくれる。「日本語うまいね。」と返すと、はにかみながら嬉しがる。

 

中国、韓国、アメリカ(ハワイだけだが・・)に行ったことはあったが、ネパールは行ったこともないし、行こうと考えたこともない。

 

結局決断したのは、3週間前。

 

この年になっての初めての外国一人旅は、ネパールになった。

 

通り一遍ではなく・・・

以前から当院では、定期的に地域の在宅ケアにかかわる多職種の勉強会を行っている。そこでのテーマは多岐にわたり、認知症や、ガン、神経難病の医学的知識の拡充を基に、さまざまな制度のお話なども取り混ぜながら、事例の検討などもしていっている。先日この勉強会で、成功事例の検討が行われた。

成功事例とは、これまで支えることが非常に困難であったり、無理な事例をこうすれば支えることができた。このようにすればもっとよりよい在宅ケアができるようになるだろうという新しい方法についての検討である。ともすると自慢話になりがちだが、成功事例を積み重ねたり、そこでの教訓を普段の現場に活かす意義は大きい。

 

「認知症で一人暮らし、人が尋ねたり、人の世話になることを嫌ってきたお年寄りが、急に食事がとれなくなり、弱ってしまった。」事例だった。まだ介護保険申請もしていない。だから地域包括支援センターの支援員がボランタリーにかかわり、毎日訪問しながら、食事介助をしたという。少しずつ元気を取り戻す過程を見ながら、その支援員は少しずつ、関係を構築する。そしてその間、介護保険の申請を行い、デイサービスやヘルパー利用につなげて、今はとても元気に過ごしているというのだ。

 

このように、ちょっとした状態変化を契機に、サービス導入が図れて、以前よりむしろいい生活に導くことが可能になる事例がある。しかしそれはたいてい同居の家族がいる場合だ。今回の事例のように独居の場合は、難しい。結局誰もが手をこまねいているうちに、状態がさらに悪化して入院を余儀なくされたり、施設入所などで対応せざるを得なくなる。そうすると、認知症状の増悪や状態変化などから、社会生活困難性が高まり、結果自宅での生活が困難になり、結果自宅には帰れなくなる人が少なくないのだ。

 

今回の事例を通じて、私たちが学んだこと。それは通り一遍の対応では、やはり人は支えられないということである。誰かが本当に親身になって、支える必要があるということだ。家族がいれば、家族がその役割を担うことが少なくない。しかし家族がいない場合でも、誰かがその役割を担えば支えられる可能性が出てくる。今回の事例では、地域包括支援センターの相談員の方が頑張ってくれたから、支えられた事例である。このような事例から学ぶことは、結局は人を支えるのは人であり、単なる介護サービスではないということである。

当たり前のことだが、そんな大事なことを教えてくれる勉強会であった。